目次
はじめに
私は普段、GSX-R1000Rというバイクに乗っています。
マフラーをARROWのX-Koneというスリップオンに交換しているのですが、政府認証のため、消音用のバッフルが装着されており、バッフルが抜けないように止め輪で固定されています。また、止め輪は取り外せないように点付け溶接されています(認証のため着脱不可となっている)。
止め輪の折損事件
普段はバイクに乗ったあと、納屋に保管しているのですが、ある日地面に折れた止め輪が散らばっていました。なんだろうと思いマフラーの出口を見ると、止め輪が半分消えていました。
止め輪が付いている 止め輪が半分脱落
原因の推測
止め輪はステンレス製のため、マフラーの排熱程度で、だめになってしまうことはないと考えます。そもそも、メーカーが止め輪で脱落防止をしているのでそれ自体は問題ないでしょう。
溶接が怪しい?
止め輪は簡単に取り外せないように溶接されていました。この溶接は、認証を取得するため国内の販売店で行っていると考えられます。通常、止め輪は溶接して使うことはないと考えます。
止め輪に熱応力が発生
使用している穴用止め輪は、工具で窄めた状態で穴に挿入して固定します。この状態では止め輪の変形により弾性力発生しています。
弾性力とは止め輪を永久変形しない程度に変形させることで、元に戻ろうとする力のことです。つまり固定している状態で止め輪は常に応力を受けていることになります。
常に応力を受けている状態で溶接を行うと、金属は溶接により発生する熱によって一時的に膨張します。どの程度膨張するかは材料により異なり、熱膨張率で表されます。止め輪の材質をSUS304とすると、熱膨張率は17.3×10-6マフラー材質のニクロムは14×10-6で、わずかに異なります。熱膨張率に差があると、同じ温度でも接合されている材料同士の膨張量が異なるため、溶接箇所に応力が生じます。この応力が熱応力となります。
温度差により繰り返し応力が発生
熱応力が生じても、材料の引張強度を超えた応力にならなければ、壊れることはありません。問題はその応力が繰り返された場合です。
止め輪はマフラーに使用しているため、エンジンからの排熱により加熱されます。しかし、使用後は常温まで冷却されます。バイクを使うたびに高温と常温が繰り返されるのです。そこで問題になるのが熱疲労です。
温度が上昇すると金属が膨張し、低下すると金属は収縮します。このとき材料同士の熱膨張率に差があると膨張、収縮時に溶接箇所に応力が繰り返し作用します。繰り返し応力が作用することで金属疲労が発生し、溶接部から折損するのです。
下の写真が折れた止め輪ですが、2箇所で折れています。この箇所が溶接されていた箇所になります。実際は4箇所程溶接されていましたが、右半分は溶接が甘かったのか溶接部から剥がれており、折れていませんでした。
対策
止め輪はだめなのか
バッフルの脱落防止に止め輪を使用すること自体は合理的と考えています。止め輪は抜け止めの役割をする部品だからです。問題なのは止め輪を溶接してしまったことにあります。よって止め輪を溶接せずに使用することは問題ありません。今回は構造を変えずに止め輪を新調して対処しようと考えています。
例えば以下はステンレス製で熱にも強く良いですね。
ねじ止めがよいのでは
他社のマフラーではねじにより脱落防止を測っていて、ねじのナットを溶接しているものがあります。この方法も問題ないと考えます。そもそもネジは緩むものなので、走行中にランダムな振動が発生するバイクでは適切な締め付けをしないと緩んで脱落するおそれがあります。これについては、適切な締め付けトルク管理に加えて、ネジロック等の緩み止め、またねじに穴を空けて割りピンを挿入し、ねじが緩んでも脱落しないような対策も効果があります。
まとめ
今回のまとめは以下です。
- バッフルの抜け止めに止め輪使う場合は溶接しないこと
- 溶接により異種金属間に熱応力が発生し、温度変化による熱疲労により止め輪が折損するおそれがある
- 止め輪を使用する場合は溶接しないこと
- ねじ止めに脱落防止構造も効果がある
マフラーを交換した際は、バッフルが正しく固定されているか確認しましょう。
よきバイクライフを!